プラスチックは、原油から精製されたナフサを原料としている。その中でも、最も一般に使われているのが、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレンで、4大汎用樹脂(プラスチック)と呼ばれている。レジ袋は4大汎用プラスチックの一つ、ポリエチレンからできている。レジ袋は紛れもなく、プラスチックなのである。プラスチックは丈夫であるが故に、微生物による分解が難しく、自然に分解されるまで、50年、百年単位かかる。ところで、森や林に不法投棄されたごみを拾ったことのある諸兄妹なら御存知であろう。土の中に埋めたレジ袋を取り出すと、ボロボロの状態で出てくることが多いことを。しかし、これは生物分解を受けているわけではないと言う。兼廣春之(東京海洋大学名誉教授)先生によると(プラスチックによる海洋環境汚染)、「海洋に流出したプラスチックは時間と共に劣化していき、小さなプラスチック片へと砕片化していきます。最近、海洋ごみ問題でこの破片化した小さなプラスチック片(マイクロプラスチックといいます)による環境汚染が新たに指摘されています。ここで注意していただきたいのは、砕片化したプラスチックは分解してできたものではありません。形は小さなプラスチック片になっていますが、普通のプラスチックと何ら性質は変わりません。たとえ、1mm以下の目に見えないくらい微粒子状になったとしても分解しているわけではありません。劣化、崩壊して小さくなっているだけである。(分解ではなく、崩壊といいます)。微粒子状のプラスチックは、小さな海洋生物に影響を与えます。海中のプランクトンが海面に浮遊する微粒子状のプラスチック微粒子を飲み込んでいるという事例が、最近報告されています。飲み込んでいるプラスチック微粒子の大きさは10~20ミクロン程度と言われています。プランクトンが飲み込んだ微粒子状のプラスチックは排出されないままプランクトンの体内に残ります。」2020年6月2日の朝日新聞夕刊に、珍しい深海魚の長さ1m前後のアカナマダが定置網に入っていたという。胃を開けてみたら、イカやカタクチイワシに交じって、薬やビデオの包装フィルムなどが出てきたという。こういう話はもう既に日常的な話になりつつあるのではないか。筆者は恐れるのだ。20年前、すでに海洋生物に誤飲・誤食を招いているプラスチックに警鐘を鳴らしていた「プラスチックの海」(1995年4月20日海洋工学研究所出版)が、「私たちがこのままプラスチックを大量に生産し続ければ、長い年月の後、どこの海で水をすくっても、小さな小さなプラスチックの粒(当時は、マイクロプラスチックという呼び名が定着していなかった)を見るようになるかもしれない」と予測していた。出版が1995年だから、2020年現在、すでに25年が経過した。残念ながら、その予測は、もう既にそこまで来ている。善良なる諸兄弟の皆さん、どこに行っても、マイクロプラスチックが海の表面のそこいら中に散らばっている世界を、我々の子供、孫の世代に引き継いでいきますか。子供が、孫が泳ぐと、体中にマイクロプラスチックがまとわりつく状態がもう手の届くところに来ている。レジ袋だけではない、生分解しないプラスチックを根絶しなくてはならない。マイクロプラスチック問題では、高田秀重(東京農工大教授)先生や兼廣春之(東京海洋大学名誉教授)先生が有名である。高田先生によると、東京湾で釣ったカタクチイワシ64尾中49尾からマイクロプラスチックを検出している。今や、なんとあの小さな、目には見えない動物プランクトンの体内からもマイクロプラスチックが見付かっているというのだ。高田先生の調査によれば、東京湾運河部の場合、海面に浮いているものが、1平方m当たり5個に比べて、海底の泥の中には、大量のマイクロプラスチック(300,000個/m2)が堆積していると言う。また、環境省の平成30年度海洋ごみ調査の結果によれば、沿岸海域(東京湾、伊勢湾、大阪湾及び別府湾)計20地点において、ニューストンネット(表層を浮遊するプランクトン等の採集に用いるネット)を用いてマイクロプラスチックを採集し、個数を計測した結果では、マイクロプラスチックの海中密度は、東京湾湾口部及び湾央部計4地点で4.69~65.6個/㎥、伊勢湾・湾央部1地点で3.63個/㎥、これら5地点を除く15地点では、0.02~1.37個/㎥であったという。既に20地点の海域で平均、1㎥当たり約1個、多いところでは、1㎥当たり5個見付かっている。なお、東京湾において高い濃度を示した調査地点(65.6個/㎥)については、調査船が採集の際に、漂流ごみが集積している潮目を通過したことに起因すると考えられると言う。
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