夏が来たら思い出す、はるかな尾瀬、遠い空と歌う、童謡・唱歌の「夏の思い出」は筆者のカラオケの定番である。一度は行ってみたい尾瀬、一度はこの目で、湿原で咲く白い可憐なミズバショウを見てみたいものだ。6月には蛍が飛んでいるのを見ることもできる。夏には、黄色いユリ科のニッコウキスゲの群生を見る。秋の紅葉も捨てがたいと言う。空気はひんやりとして清々(すがすが)しい。何しろ、群馬県側に至仏山(しぶつさん2,228m)、福島県側に燧ケ岳(ひうちがたけ2,356m)をはじめとした6つの2千メートル級の山々に囲まれた高層盆地なのだ。尾瀬は、6つの山の樹木が発散するフィトンチッド(リフレッシュ効果を持つ揮発性物質)が醸(かも)し出す森林浴の只中にある。尾瀬国立公園の広さは、優に東西6㎞、南北3km、群馬県、福島県、新潟県の3県にまたがり、その広さは、東京ドーム(0.047 km²)の約400倍である。国立公園ならびに特別天然記念物に指定され、ラムサール条約の登録湿地でもある。
しかし、実は今から70数年前の1948年、尾瀬ヶ原を高さ100mのコンクリートの堤体で区切って貯水量7億2千㎥、発電量230万kwとなる巨大ダム発電計画が何度も公表されていた場所だったのだ。当然ダム反対運動が起こる。この運動の中で、尾瀬の自然を守ろうと、「尾瀬保存期成同盟」がつくられ、これが現在の日本の自然保護を中心になって担う日本自然保護協会となっていく。尾瀬は、日本の自然保護運動の嚆矢(こうし)なのだ。1996年、東京電力(株)が尾瀬ヶ原の水利権を放棄し、ここに世界でも貴重な高層湿原の尾瀬は永久に保全されることになった。実は、尾瀬国立公園全体の約4割、特別保護地区の約7割の土地を所有しているのは、他でもない、東京電力なのだ。我々は、東電の所有地を歩かせてもらっていると言えよう。
ところで、「夏が来たら思い出す」とあるから、ある人が本当に夏に尾瀬に行ったら、既にミズバショウの季節が終わっていた。そこで、作詞した江間章子(えましょうこ)氏に文句を言ったら、江間氏曰く、「尾瀬においてミズバショウが最も見事な5、6月を私は夏とよぶ、それは歳時記の影響だと思う。歳時記には俳句の季語が掲載されており、ミズバショウは夏の季語である。文学上の季節と実際の季節には、少しずれがある。また二十四節気においても夏にあたる。」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)。ミズバショウの見頃は、5月末から6月なのである。一般に言う夏ではない。梅雨の季節である。詩はさらに、「はるかな尾瀬、遠い空」と歌う。なんだか遠そうだが、実際はどうなのか。
尾瀬へのアクセス
東京・神奈川方面から行くなら、登山口として鳩待峠か大清水、及び浅草駅から東武特急で会津高原尾瀬口駅に出て会津バスで尾瀬沼山峠か尾瀬御池に出るコースの4通りある。この内、鳩待峠と尾瀬沼山峠は、歩いて1時間ほどで前者は尾瀬ヶ原の山小屋に、後者は尾瀬沼の山小屋に着くため、手軽である。登山口が大清水の場合は、大清水の山小屋に泊まるなら別だが、3時間歩いてやっと尾瀬沼の山小屋に着く。
また、尾瀬は、西側に至仏山と尾瀬ヶ原、東側には燧ケ岳と尾瀬沼がある。両方とも制覇するには、1泊では厳しい。従って、至仏山(山開きは7月1日)や尾瀬ヶ原の花畑を見たいなら登山口として鳩待峠を、燧ケ岳を登りたい、尾瀬沼周辺を散策したいなら大清水か尾瀬沼山峠、尾瀬御池を選択することになる。
1.登山口を鳩待峠とした場合:鳩待峠から尾瀬ヶ原の入り口の山の鼻まで歩いて1時間ほど。山の鼻で宿を取れば、すぐにミズバショウが咲く只中に入り込むことができる。
●個人旅行の場合は、浅草駅から東武特急で会津高原尾瀬口に出て、ここから会津バスで尾瀬沼山峠に出るコースが一番近く、3時間で登山口に出られ、料金もバス代込みで往復11,400円と安い(宿泊費は除く)。筆者は、こちらを勧めたい。
東京駅から長野新幹線で高崎まで行き、そこから上越線に乗り換え沼田駅からバスに乗るコースは、バスの本数が多くて便利である。上越新幹線で上毛(じょうもう)高原駅に行き、そこからバスに乗るコースはバスの本数が少なくて不便である。しかし、バスの時間をうまく合わせれば、乗り換えがない分、1時間近く早く着く。料金は340円高くなるだけである。。
以下のコースは、旅行業者が勧めるコース設定である。
●夜行直通バス(朝出発のバスもある):夜11時に池袋を出発して、新宿・横浜駅でも客を乗せて、約6時間半の午前5時半に登山口の鳩待峠に着く。費用は、往復のバス代と山小屋1泊の計約1万8千円ほどである。
●新幹線:往復とも新幹線を利用した場合、東京駅朝8時出発し、9時半前に上毛(じょうもう)高原駅に着く。そこから09:30発の関越交通バスに乗って、尾瀬戸倉に10時56分に到着 (約1時間半、バス代2千500円)、さらに11時10分尾瀬戸倉発のバスに乗って約30分、11時45分に登山口の鳩待峠に着く(バス代1,000円)。東京駅から約4時間弱ほどである。費用は、往復新幹線代と山小屋1泊の計約2万円である。
2.登山口を尾瀬沼山峠や尾瀬御池、大清水とした場合:尾瀬沼山峠から1時間で尾瀬沼東岸に着き、周辺の山小屋に1泊できる。大清水の場合は、一番近い山小屋がある尾瀬沼東岸まで3時間かかる。
●東武夜行特急(土・日・祝日のみ):浅草23:55発、尾瀬沼山峠に、朝6:10着。バス代込みで往復11,400円(宿泊費は除く)である。東武トップツアーズ(https://tobutoptours.jp/dom/oze/index02.html)で予約するが、ホームページ上では、まだ予約ができない。昨年は8月1日から10月15日までの運行だった。
●夜行ではない場合:浅草駅から東武特急で会津高原尾瀬口駅に出て、ここから会津バスで尾瀬沼山峠に至る。
浅草駅6:30分発→会津高原尾瀬口駅→尾瀬沼山峠9:23分着
7:30分 10:19分
9:00分 11:59分
11:00分 13:52分
(東武トップツアーズで時刻を確認したい。バスの運行は5月からである。)
森川海守のお勧めコース
1泊2日のお勧めの日程としては、浅草駅から東武特急で会津高原尾瀬口に出て、会津バスに乗り換え、登山口の尾瀬沼山峠に至るコースが一番安くて早く着く。翌日、尾瀬沼の山小屋から歩いて2時間半で燧ケ岳に登り、下りは1時間半かけて尾瀬沼周辺を歩いてまた、尾瀬沼山峠に出るコースか、燧ケ岳から2時間30分で登山口の尾瀬御池に出て、ここからバスに乗って途中、檜枝岐温泉で汗を流し、蕎麦を食して帰るというコースを勧めたい。どの登山口からでも、途中に温泉や蕎麦屋が多くあるので、行きのバスに乗っているときに、目ぼしい温泉と蕎麦屋を探しておくことを薦めたい。
なお、一般には、山小屋では予約は不要だが、尾瀬では観光客が多いため、予約なしでは泊まれないことになっているので、早めに予約したい。
筆者は登山口が好きである。それまで、ビル等の建物や道路があった所から、いきなり緑一色の異世界に入り込む。その異世界への入り口が好きなのだ。但し、尾瀬の場合は、バスが停まる駐車場の鳩待峠でさえ、標高1,590mある。いきなり、猛スピードで駆け登るのは危険という。体が高度に慣れてから山歩きをスタートしたい。なお、尾瀬沼や、尾瀬ヶ原周辺の場合、多くは木道を歩くので、山登りのような高低差はほとんどなく、歩くのはたやすい。
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