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執筆者の写真森川海守

朝日のセンセーショナルな記事が蒲島知事をダム開発に追い込んだ 

 11年前に、熊本県の蒲島郁夫知事は川辺川ダム中止を表明していた。しかし、今回の7月の豪雨で記録的な被害に直面した後の、10月6日に開かれた「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」での国交省九州地方整備局の「ダムがあれば浸水面積を6割減らすことができた」とする説明を受けてから、わずか1ヶ月半弱の11月21日には、知事と国土交通省の赤羽一嘉国交相との会談で、「貯留型」ダムを造る国の川辺川ダム計画を廃止したうえで、川の水を流しながら洪水時だけ水をためる流水型ダムを建設するよう国に求めたと言う。


 このように、10月6日からわずか1ヶ月弱で、11年前のダム中止表明を翻(ひるがえ)すことになった背景には、10月6日開催「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」での国交省九州地方整備局の説明について記事、10月7日の朝日新聞等の記事が関係していると筆者は考える。10月6日の記事は以下のように伝えている。


川辺川ダムで「人吉など浸水面積6割減」 知事「議論の中心に」熊本豪雨で国推計

 熊本県南部を中心とした7月の記録的豪雨で氾濫(はんらん)した球磨(くま)川の治水対策を巡り、国土交通省九州地方整備局(九地整)は10月6日、11年前に計画が中止された川辺川ダムが仮に建設されていた場合、人吉市中心部と隣の球磨村の一部の浸水面積を6割程度減少できたなどとする推計結果を公表した(以下のURL)。

 九地整によると、川辺川ダムが存在した場合、人吉市中心部での球磨川の最大流量約7,400トン(毎秒)を同約4,800トンまで約35%削減でき、市中心部と球磨村渡地区の浸水面積568.6ヘクタールを約6割減らすことができたとした。家屋の2階までの浸水が想定される深さ3メートルの範囲は同地域で約9割減少できたとも推計。水位は人吉市市街地で約1.9メートル、球磨村渡地区で約1.7メートル、八代市坂本地区で約1.2メートル低下させる効果があったとした。

九地整は、ダム計画中止後に検討されてきたダム以外の治水策の効果も報告。遊水地の設置を中心に河道掘削などを組み合わせた対策では、人吉市中心部で最大流量を約25%削減できたと推計。工期は50年以上かかるとした。ダムの工期は言及しなかった。

(伊藤秀樹、竹野内崇宏)


 ダム反対に立つ筆者から見ると、この記事はダムの効用ばかりを伝え、氾濫地区からの撤退や遊水地建設等のダム以外の効用をほとんど伝えていない。ダム賛成派に有利な記事になっていると指摘したい。

 朝日新聞記事による、国土交通省の説明の要点は、ダムがあれば、人吉市中心部での球磨川の最大流量約7,400トン(毎秒)を同約4,800トンまで約35%削減でき、市中心部と球磨村渡地区の浸水面積568.6ヘクタールを約6割減らすことができたとし、ダム以外の遊水地等で25%削減できるとしている。しかし、ダム以外の遊水地等の対策では、浸水面積をどのくらい減らせたかを示していない。下記は、国土交通省の推計結果を筆者がまとめたものである。


人吉区間の浸水範囲の低減効果

川辺川ダム:第1期(6/11~9/15)   約6割低減         

     :第2期(9/16~10/15)   約4割低減

遊水地等の対策を組み合わせた対策   約4割低減

放水路等の対策を組み合わせた対策   約6割低減

出典:国交省九州地方整備局第2回「球磨川豪雨検証委員会」


4.「球磨川治水対策協議会」での治水対策の効果について

 つまり、ダム以外の遊水地等の対策では、浸水面積を4割(4.3割)も減らせることができるのだ。放水路等の対策ならば、ダムと同じ6割の低減効果がある。朝日新聞記事では、ここの説明がカットされている。

 もう一つ重要な点は、利水容量が大きくなる第2期(9月16日から10月15日)ならば、人吉区間の浸水範囲の低減効果は4割と、ダム以外の遊水地等の政策と同程度となる。そこのところを報道せず、国土交通省の言うまま、「ダムを造れば浸水面積を6割減らせる」というダムの効果を過大に宣伝する結果となってしまっている。台風シーズンは8~9月である。そこの一部を外して、今回はたまたま7月に豪雨がきたから、9月16日以降の期間の推計結果を外して6割減らせるとした国土交通省の説明をうのみにしてダムの効果をセンセーショナルな記事にした結果が、世論をダム容認に傾かせた原因ではないか。筆者ならば、新聞のタイトルを、「川辺川ダムで人吉など浸水面積6割減、ダム以外の遊水地等で4割減」とするだろう。新聞だから、センセーショナルな記事が人々に受けが良い。 

この朝日新聞等の記事のお陰で、国土交通省は内心、にんまりしているのではないか。ダム開発が承認されたのだから。


 おまけにダムの工期は言わず、ダム以外なら、工期は50年以上かかるとしている。

なに、浸水被害地から安全な所への撤退なら、住民との話し合いで2年から3年、家を建て替えるのに1年、併せても5年もかからないだろう。

 ダムの建設なら、環境アセスメントに4~5年、ダム本体建設に10~20年はかかる。20年以上待たないと、豪雨に備えられないのだ。地球温暖化の影響もあって、今回の100年に一度の豪雨が、10年に一度の災害になってしまうかもしれず、ダム建設を待っていては、また人命が失われることは必至。ダムによらない対策を真剣に追及し、直ちに実行に移さなくてはいけない。国土交通省は、ダムによらない対策を、省を挙げて取り組むべきだ。「洪水を河道から計画的にあふれさせて制御する流域治水(下記参照)」の考え方も、この流れに伴うものだろう。

 

 この際、国土交通省、熊本県蒲島知事に問いたい。ハザードマップを作るのは当然として、浸水被害が起こりそうな川のそばに住む人々を、なぜ安全な場所に移転させなかったのか。特に高齢者の住む家や老人ホーム等を、川から遠い所、非難しやすい場所に移転させてきたのか。洪水等が起こりそうな時の避難の呼びかけや、避難経路の周知徹底、避難場所の整備等はしてきたのか。浸水被害想定地域に、多摩川等で行われているピロティ構造のビル等を整備してきたのか。町のそこかしこに、遊水地を整備してきたのかと。ダムの中止を表明後はただ協議会で話し合うだけで終わり、今回の洪水に備えられる対策を実行に移してきたのかと問いたい。国土交通省も熊本県等の自治体からも、60名の人命が失われたことの反省の弁が聞こえてこない。

 

平川記者の「住民への避難の呼びかけなど当時の関係機関の対応に問題がなかったのか十分に検証しないまま、ダムの効果ばかり強調する国や県などの姿勢には疑問を禁じ得ない。」には大いに賛成だ。


 そうして筆者は主張したい。まず、この度の洪水がなぜ起こったのか、なぜ人命が失われたのかを問われなければならないのに、なぜダムの話しが出てくるのかと。洪水が起こったのは、球磨川が氾濫したのは、堤防が破堤したからではないのか。国土交通省の責任が全く問われていないのは考えものだ。また、人命が失われたのは、速やかな非難を呼び掛ける自治体の政策が災いしているのではないのか。最近の新聞記事によると、蒲島知事に対して、「ダムがないから人命が失われたのだ、ダムを造れ」と、球磨川流域12市町村の首長が嘆願したという。特に錦町の森本完一町長は流域市町村の会合で、「ダムがあったら(被害)を完全に防げたのではないか(引用は、朝日新聞記事)」と語気を強めたという。この発言に対しては、国交省でも断言している。ダムを造っても、100%被害を防げない。浸水被害でさえ、やっと6割程度と言っているのだ。


 筆者は、この度の洪水に備える対策を提案したい。

この7月より、国土交通省は、流域治水という言葉を使うようになってきた。国土交通省の説明によると、そのイメージは、

○ 気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、河川の流域のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う治水対策、

○ 治水計画を「気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの」に見直し、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、地域の特性に応じ、

1.氾濫をできるだけ防ぐ対策、

2.被害対象を減少させるための対策、

3.被害の軽減・早期復旧・復興のための対策をハード・ソフト一体で多層的に進める。としている。  

この説明のなかで、ほとんど説明されていないことは、森の、山の保水力についてである。国交省の説明資料の中の写真を見ると、ダムに貯まった杉と思しき丸太が堰き止められ、ダムのおかげで下流に流れ出る丸太による洪水被害を軽減できたと、写真の説明が書かれていたが、これは、山に人工の杉が植えられ、そのため、山の保水力が落ち、山に降った雨が、一気に川に流れ込んで最大ピーク流量(ある洪水における最大流量)を増やし、これが洪水の原因の一つになっているのではないかと筆者は考える。広葉樹林と比べると、杉は根の張りが弱く、水を貯える力が弱いことが知られている。洪水防止で大事なのは、「最大ピーク流量」をいかに減らすかだ。降った雨が、一気に川に流れ込めば、川を流れる流量が一気に増えて、破堤を招こう。農水省と相談し、杉に換えて広葉樹林を植林するよう提言したい。

 また、全国どこでも、山の中でも、水のはけを良くしようと、コンクリートの水路、排水路が造られている。これが張り巡らされると、山の保水力が落ち、ピーク流量が増える原因になる。国土交通省の流域治水についての説明にも掲載されるようになった浸水路面や雨水浸透升(ます)のような施設を、コンクリート水路に換えて設置して欲しい。


第2堤防、第3堤防を造って浸水被害が拡大するのを防ごう

 今ある堤防の外側に二重の堤防を造り、浸水面積が広がらないようにしたい。いわゆる二線堤と呼ばれる堤防である。専門用語では、堤防と堤防の間の、水が流れる所が堤外地、住居がある所が堤内地で、堤内地側に堤防をもう一つ、あるいはもう二つ造るというアイデアである。長良川や木曽川等で昔から行われている輪中(わじゅう)提がこれに当たる。ダムを造って自然を破壊する前に、まず二線提を整備するのが先ではないか。第2、第3の堤防を造れば、浸水面積の拡大を防げる。

 また、輪中提の中にある住居を見学したことがあるが、家々が洪水に備えてボートを備えていた。川辺川はどうであったろうか。令和2年7月豪雨の前にも、今から55年前の昭和40年7月にも洪水が起こっている。洪水常習氾濫地区に住む人達の洪水に備える準備は整っていたのかと問いたい。


洪水常習氾濫地区からの立ち退き

 もう一つ、自然破壊のダムを造る前に洪水常習氾濫地区に住む人達を川から立ち退かせることが重要だ。川のすぐそばに住居を建てるというのはどう考えたら良いのだろうか。まず指摘したいのは、川の水が運んでくる土砂で自然に積みあがった自然堤防を壊して住んでいることである。これは自然を破壊し、自然の景観を壊している。その上に、洪水が来る恐れがあるとして、税金を使って、家の前に強靭な堤防を造らせている。洪水は必ず来るものと考え、法律を作って、氾濫地区から立ち退かせ、自然の河川に戻すことが必要だ。人吉地区でこれを実行すれば、眺めが良くなって、川下りの観光客が大喜びすること必至である。川そのものも、洪水が来ることにより、土砂やごみや繁茂する植物等の不要物を流し去ることで、生命にとって洪水は恵みの雨に匹敵すると言われる。洪水は数十年に一度は来るものと考え、それをダムによって排斥するのではなく、受け入れることが必要だ。この度の洪水では、国土交通省の専門家でさえもお手上げと言っているのだ。


道路を洪水の水を流す放水路として使おう

 球磨川放水路案が、球磨川治水協議会で議論されていた。この案は、水路を新たに造ろうという提案である。国土交通省の推計結果では、ダムに匹敵する効果がある。これに対して、費用が掛かる水路を新たに造るよりも、今ある道路を使って、洪水の溢れた水を流せるようにしたらどうかと提言したい。水は上手から下手に流れていく。道路を洪水時に水路として使うためには、川の上手から、下手の海へと繋がるように道路を整備することや、脇道に土嚢(どのう)を作って、水を適切な所に誘導することも重要だ。ダムや新たな水路を造るよりもわずかな費用と期間で整備できよう。是非、検討してもらいたいと提言する。


ダムに貯まる土砂を取り除く維持管理を国交省に求めたい

 ダムを造れば、下流には砂が流れてこないため、全国各地の砂浜がやせ細っている。ということは、土砂がダムに貯まっているということだ。ダムを造る際には、洪水調節容量、利水容量の他に堆砂容量を設定している。この堆砂した土砂を取り除くことができれば、それだけ、洪水調節容量が増えて洪水時、水を蓄えて、下流での洪水被害を減らすことができる。以前国土交通省の関係者に聞いたことがある。ダムに貯まる土砂を取り除いたらどうですかと。関係者いわく。費用がかかるから、それはできないと。しかし、筆者は主張したい。新たなダムを造るよりも、今あるダムを、費用をかけてでも大事に使って、土砂が貯まって、機能できなくなったダムから土砂を取り除き、生き返らせるのだ。そうすれば、自然破壊するダムの新設を抑えることができる。関係者の言は、自然破壊して新たなダムを造る方が安いと言いたいのだろうが、現在、自然の価値を経済的に計測しようという流れがアメリカから始まって、ヨーロッパでも日本でも広がりつつある。最低でも、(注)CVM(Contingent Valuation Method:仮想的市場評価法)で自然の価値を計測した後で、評価して欲しい。自然破壊して新たにダムを造り続け、既存のダムは土砂を取り除かず、土砂が貯まってダムとしての機能が落ちるまで使い続けるのが安いのか。新たなダムを造るのを抑え、できるだけ土砂の堆積を抑えながら長く使い続けるのが安いのかを。

土砂を取り除く作業は大変で、特に重機がダム湖から土砂を取り出す際に、細かい砂がこぼれ落ちて、下流に漁業被害を及ぼす。被害を及ぼさない何らかの工法を編み出して欲しい。入札額を上乗せして技術開発のアイデア提出を促し、もってダムを蘇らせて長く使い続けることが、自然保護のためにも、税金の無駄使いを防ぐためにも必要だ。

(注)CVMとは、無作為抽出のアンケートで、「あなたはここにダムを造る場合、どれ位補償してもらいたいですか」などと尋ねた結果を統計処理して、失われる自然の価値を経済的に評価しようというもの。

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