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執筆者の写真森川海守

生活保護を受けている人に健康保険証がないのはなぜ?

 いま82歳の姉に出会ったのは、今から3年前である。実は、筆者の家族は、60年前、親の離婚をきっかけに、筆者は父親が、姉2人は母親が引き取り、てんでんばらばらになってしまっていた。その上、父親は筆者が7歳の時に、筆者を置いて、どこかに行ってしまい、姉の方は、母親が早くして亡くなり苦労したようだ。長姉は2回結婚し、夫の家庭内暴力で2回とも離婚している。子供は一人いるが、夫から子供に会うなと言われ、今は所在さえ知らない。筆者は姉の所在を知らずに孤児院で育ち、苦学の上、大学院まで進学、良き人を迎えて、家庭を築いていたそんな3年前のある日、奈良市からの手紙が届いた。一体、どんな用で手紙が届いたものかと不審に思いながらも、封筒を開けたら、長姉が生活保護を請求している。少しでもいいから援助を頼めるかという内容。いま問題になっている、生活保護請求者の血のつながりのある人が費用負担を求められ、それをきっかけに疎遠だった家族の間に、プライバシーが漏れてしまう事態が起こっている。費用負担請求制度を止めようという運動が起こっているのはもっともなことだ。血のつながりがあるというだけで、会ったこともない、世話を受けたこともない姉の生活保護費の一部だけでも払えというのは、無茶ではないかと思う。

 実は、今から20年前、姉を探しに奈良市を訪れている。その時は、市の担当者も姉の所在が分からなかった。しかし、会ったこともない姉の弟である筆者を、奈良市はよく探すことができたものだ。恐らく20年前には普及していなかった住民基本台帳ネットワークシステム、住基ネットを使ったものであろう。

 

 生活保護で良かったのは、脳梗塞を患い、肢体不自由な姉を奈良市から鎌倉市まで連れてくるまで、引っ越し費用や家を借りるのに必要な敷金、礼金、家賃一か月分の費用を出してくれたことだ。引っ越し費用は現金でもらえたから助かった。病院にかかる費用もすべて出してくれる。しかし、健康保険証を発行しないため、どこそこの病院に行きますと予め市に知らせる必要があること、病院には私は生活保護者で、既に市に受診許可を受けていますと窓口に告げなくてはいけない。姉を連れて病院に行くときは、これが辛い。市の福祉支援係は、生活保護者からの電話を受けて、病院に電話し、市が直接支払いますと告げることになるため、病院には患者が生活保護を受けていることが分かってしまう。この制度はどんなものであろう。プライバシーは保護されるべきではないか。しかも一々生活保護者が病院に電話し、それを受けて担当者が病院に電話する。行政の効率性から言っても問題がある。生活保護者に健康保険証を発行し、一部負担費用は市が支払うという文言を健康保険証に書くだけでもよいのではないか。これと対照的なのは、子供の医療費の無料化制度である。鎌倉市では、10歳になる息子の医療費(中学3年まで無料だが、小学1年に上がるまでは所得制限がなく、小1から中学3年までは所得制限がある)を無料にしてくれているが、わざわざ受診するのに、電話する必要がない。「鎌倉市が医療費の一部を助成している者であることを証明します」と書かれた小児医療証を病院に見せるだけで事足りる。生活保護者の医療費も、小児医療証に倣ったらどうだろう。今の制度はプライバシーの面や、行政の効率性、係る費用の面から改善すべきである。


 毎月の支給費月11万9,900円も安すぎる。しかもこの10月、今まで12万1,170円だったものが1,270円減額されてもいる。この額では、かつかつの生活で、貯金もできない。生活保護は社会のセーフティーネット、いつ我々が利用するか分からない。憲法で補償された国民の権利でもある。もっと充実させたいものだ。


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